Excel 管理・運用から脱却するための8ステップ
限界に直面した Excel 管理・運用から脱却したいものの、以下のようなお悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。
- どこから手を付ければよいのか
- どのように進めていけばよいのか
本記事では、Excel 脱却の成功を導くための 8 つのステップを解説します。
【前提】マインドセット「小さく始めて、どんどん改善」を持つこと
まず、Excel からの脱却を進める前に、核となるマインドセット「小さく始めて、どんどん改善」を持つことが重要です。理由は以下になります。
- 早期の成功体験で確実な前進
- 成功体験による組織全体の自信獲得
- 社内の協力が得られやすい環境の形成
- 最短での目標達成
- 実践を通じたナレッジ・ノウハウの蓄積
- 効果検証の質とスピードの向上
- 初期のリスクと投資の抑制
- 段階的な投資によるムダの排除
- 影響範囲を限定した安全な推進
このような背景から、脱 Excel プロジェクトの成功を導くために、マインドセット「小さく始めて、どんどん改善」に紐づくアクションで進めることが大切です。
【全体像】脱 Excel の 8 ステップ
マインドセット「小さく始めて、どんどん改善」に基づく脱 Excel の進め方は以下の通りです。
フェーズ | 実施内容 |
---|---|
企画フェーズ | 1. Excel 管理・運用の棚卸し |
2. 脱 Excel 化する業務の選定 | |
計画フェーズ | 3. 現状の業務フロー可視化 |
4. 理想の業務フロー設計 | |
5. 脱 Excel 化における手段選定 | |
6. ロードマップ策定 | |
実行・改善フェーズ | 7. 脱 Excel の実施 |
8. 改善の繰り返し |
上記の各フェーズにおける位置づけは、以下の通りです。
フェーズ | 説明 |
---|---|
企画フェーズ | 現状を正しく把握し、適切な着手領域を選定するフェーズ |
計画フェーズ | 具体的な実現方法を設計し、実行計画を立案するフェーズ |
実行・改善フェーズ | 計画に基づき実行し、継続的な改善を進めるフェーズ |
各ステップについて順に掘り下げて解説します。
脱 Excel の企画フェーズ
まずは、どの業務から脱 Excel 化を始めるか決めていきましょう。
企画フェーズにおける具体的なステップは以下の通りです。
- Excel 管理・運用の棚卸し
- 脱 Excel 化する業務の選定
順番に解説します。
1. Excel 管理・運用の棚卸し
脱 Excel 化の対象業務を見極めためには、まず自社の Excel 管理・運用の全体像を把握する必要があります。
以下 3 つの観点から棚卸しを進めていきましょう。
観点 | 確認項目 |
---|---|
Excel 管理・運用中の業務の棚卸し | ・Excel 使用業務 ・関連部署 ・関係者数 ・連携範囲 |
工数・頻度の棚卸し | ・実施頻度 ・作業時間 ・突発的な作業の発生頻度 |
課題の棚卸し | ・効率面の課題 ・運用面の課題 ・データ管理の課題 |
棚卸しの段階では、質より量が重要です。まずは完璧を求めず、できるだけ多くの Excel 管理・運用中の業務を洗い出すことを優先しましょう。
この棚卸しの目的は、現状を俯瞰して着手領域を検討するための起点を作ることです。完璧な現状把握を目指しすぎると、棚卸しという手段が目的化し、次のステップに進めなくなってしまいます。
2. 脱 Excel 化する業務の選定
次に、棚卸しで把握した内容を基に、脱Excel化する業務を選定します。選定は以下 2 つの観点から総合的に判断しましょう。
観点 | 評価項目 |
---|---|
改善効果 | ・作業工数の削減 ・モレ・ミス・ロス削減による品質向上 ・データ利活用による意思決定の質向上 |
脱 Excel の 実現のしやすさ | ・Excel ファイル / シートの数 ・業務フローのシンプルさ ・関係部署の数 ・関係者数 |
選定のポイントは「改善効果が高く、実現がしやすい」業務を見つけることです。例えば、以下のような業務が候補になります。
- 単一部署で完結するが、毎日大きな工数が発生
- 業務フローはシンプルだが、ミスのリスクが高い
- 関係者は少ないが、データの正確性が重要
- …
計画フェーズ
続いて、企画フェーズで選定した脱 Excel 化する業務において、具体的な実現方法を計画します。計画フェーズの具体的なステップは以下の通りです。
- 現状の業務フロー可視化
- 理想の業務フロー設計
- 脱 Excel 化における手段の選定
- ロードマップ策定
各ステップについて解説します。
3. 現状の業務フロー可視化
まず、選定した業務の現状を詳細に把握するため、業務フローを可視化します。理由は以下の通りです。
- 業務の全体像を図示することで、関係者間で認識を合わせやすくなるため
- 作業の流れを整理することで、非効率な部分が見つけやすくなるため
- 現状を可視化することで、より良い業務の仕組みを考える土台ができるため
業務フローの可視化は、単なる現状の記録ではありません。後工程で実施する「理想の業務フロー設計」「改善手段の選定」の質を大きく左右する重要なステップです。
現場の担当者や関係者との対話を通じて、詳細に作成しましょう。
4. 理想の業務フロー設計
次に、現状の業務フローをベースに、Excel に縛られない理想的な業務のフローを設計します。理由は以下の通りです。
- 目指すべきゴールが明確になり、関係者間で方向性を合わせやすくなるため
- 現状の課題に対する解決策を具体的に描けるようになるため
- 改善の優先順位や移行ステップが見えやすくなるため
脱 Excel によって、課題が解決された理想的な業務フローを、現状の業務フロー図のように描いてみましょう。
5. 脱 Excel 化における手段の選定
続いて、脱 Excel 化の手段を選定しましょう。脱Excel化の手段は大きく 3 つあります。
手法 | 説明 | 特徴 |
---|---|---|
パッケージ | 目的に特化した 既製品のソフトウェア ※ 会計、営業支援など |
◎ 素早い導入が可能 ▲ 痒いところに手が届かない |
ノーコード・ローコード ツール |
様々な業務アプリを 簡単に開発できるツール |
◎ 柔軟性とスピードを両立 ▲ 一部、高度な処理に対応できない |
フルスクラッチ開発 | プログラマーがゼロから開発 | ◎ オーダーメイドで業務適合率が高い ▲ 時間と費用がかかる |
このような手段を比較検討する際は、以下のポイントを確認しましょう。
観点 | 検討項目 |
---|---|
機能面 | ・必要な機能の網羅性 ・自社でカスタマイズできる範囲 ・他システムとの連携のしやすさ ・データ利活用に必要な機能 ・他業務への横展開の可能性 |
運用面 | ・導入/運用時の学習コスト ・使いやすさ ・トラブル時のサポート体制 |
コスト面 | ・初期コスト ・保守運用コスト ・カスタマイズコスト |
6. ロードマップ策定
計画フェーズの最後には、選定した改善手段をもとに「小さく始めて、どんどん改善」のマインドセットを意識し、以下のように段階的な計画を立てましょう。
- 最終ゴールの策定
- マイルストーン策定(最終ゴールの細分化)
特に、マイルストーン(中間目標)策定が重要になります。理由は以下の通りです。
- 大きな目標を段階的に実現できるため
- 各段階で成功体験を積み重ねられるため
- 進捗状況を関係者と共有しやすくなるため
営業支援の脱 Excel 化におけるマイルストーンの策定例
- 最終ゴール
- 営業データの一元管理と分析の自動化
- マイルストーン
- 案件情報の入力・共有をシステム化
- レポート作成の自動化
- 予測分析機能の追加
ロードマップ策定のポイントは以下になります。
観点 | 検討項目 |
---|---|
マイルストーン | ・最終ゴールの明確化 ・中間目標への分割 ・各段階の達成基準 |
優先順位 | ・効果の大きさ ・実現の難易度 ・現場からの要望度 |
スケジュール | ・マイルストーン達成までの期間 |
このように、最終ゴールを適切なマイルストーンに分解し、小さな成功を積み重ねることで、挫折を回避しながら、脱 Excel 化を着実に進められます。
実行・改善フェーズ
最後に、計画フェーズで策定した方針をもとに、脱 Excel 化を進めます。実行・改善フェーズの具体的なステップは以下の通りです。
- 脱 Excel の実施
- 改善の繰り返し
順番に解説します。
7. 脱 Excel の実施
計画フェーズで選定した手段をもとに、マイルストーンに沿って脱 Excel 化を進めましょう。
ここでも「小さく始めて、どんどん改善」のマインドセットが重要になります。なぜなら、最初から完璧な進め方が見えていれば良いのですが、多くの場合そうではないからです。
まずは、できるところから着手し、試行錯誤しながら、改善を積み重ねましょう。形にしていく中で、より良い進め方や新たな改善案も見えてきます。
その気づきを活かしながら、一歩ずつ前に進めることで、理想的な脱 Excel 化を実現できます。とりあえず試し、ダメならまた試す心構えで進めましょう。
8. 改善の繰り返し
脱 Excel 化が完了したら、後は運用しながら改善を繰り返すのみです。現場に使ってもらい、フィードバックを得ながら、より良い仕組みへと改善しましょう。以下、改善例です。
実際に使ってみることで、新しい課題や改善アイデアが見えることも多いです。このような気づきを 1 つずつ形にしていくことで、現場に寄り添った、より使いやすい仕組みへ進化します。
おわりに
本記事では、脱Excel化を成功に導くための 8 つのステップについて解説しました。
フェーズ | 実施内容 |
---|---|
企画フェーズ | 1. Excel 管理・運用の棚卸し |
2. 脱 Excel 化する業務の選定 | |
計画フェーズ | 3. 現状の業務フロー可視化 |
4. 理想の業務フロー設計 | |
5. 脱 Excel 化における手段選定 | |
6. ロードマップ策定 | |
実行/改善フェーズ | 7. 脱 Excel の実施 |
8. 改善の繰り返し |
「小さく始めて、どんどん改善」というマインドセットを持ち、最初から完璧を目指すのではなく、着実に進めることが Excel 脱却を成功へと導きます。
本記事が、脱Excel化に悩む方々の「最初の一歩」を踏み出すきっかけとなれば幸いです。
この記事を書いた人
2016 年に旭化成株式会社に入社し、原料管理のシステムエンジニアとして従事。2019 年に株式会社キカガクに入社し、新規事業のソフトウェアエンジニア兼 C 向けコンテンツマーケティング責任者を担当。2024 年に、株式会社ファンムーブを設立。上場企業からスタートアップまで幅広く DX を支援している。